理想を追う美少女

このストーリーはフィクションであり、登場人物名などは仮名(架空)であり、実在のものとは関係ありません。

■ 美少女の理想

シーンとする階段の踊り場から何やら声が聞こえてきた。「好きです。僕と付き合ってください」「えっと、ごめんなさい」私はまたか!と思った。告白されて断ったのは川島亜美。亜美は私より年下の25歳。背丈は大きいわけではないが、サラサラのロングヘアーに切り立った目と整った顔立ちをしたスレンダーな美少女といった感じだ。女子力も高く可愛いもの好きで外見磨きに必死なところもあって本当に女性らしい。亜美は誰に対しても友好的で話しやすいが、男性と話をするときの距離が普通より少し近い。何気ないボディータッチと少し思わせぶりな発言をする癖があるので、勘違いする男性も少なくない。しかし、亜美にとってそんな話し方は普通のことなのだ。

私は新年度となる4月から市のボランティアで水曜日と土曜日、週に二回行われる外国人と英会話でコミュニケーションをとるという集会に参加していた。学生時代に学んだ英会話を忘れないために参加したのだ。参加者は十数名ほどで、その参加者の一人に川島亜美がいたのだ。集会に参加して一ヶ月ほど経った頃くらいから、亜美の思わせぶりな態度に勘違いした男性参加者は、勇気を出して告白するがフラれてしまう。告白した男性は私の知りうるだけで二人目だろうか。

ある日、参加者である青葉健一が「亜美って俺に気があると思うんだよね。俺も気になるしアタックしてみようかなって思うんだけど、どう思う?」と私に聞いてきた。私は亜美が誰に対しても思わせぶりな態度をとるのをわかっていたので「いや、亜美って誰に対してもあんな感じだから、ちょっと考えたほうがいいよ」と言った。ところが青葉健一は「いやぁー俺に対してはなんか違うと思うんだよ」と言う。私はアタックするのは待ったほうがいいとアドバイスするが、青葉健一は私の言葉に聞く耳もたない感じだった。それから次の集会日となる土曜日、いつものように参加すると青葉健一の表情が異様に暗い。予想はついていたが、一応聞いてみると「こっぴどくフラれたよ」と青葉健一は呟いた。やはりそうかと思ったが、青葉健一には「また、次の出会いに期待して頑張ればいい」と慰めるしかなかった。

その土曜日の集会が終わった後、一度参加メンバーで飲み会に行こうということになった。落ち込んだ青葉健一は不参加だったが、私を含めて8名ほど飲み会に行くことになった。8名の中には川島亜美もいた。近くの居酒屋に入ると店員に案内された座敷に参加者たちは座った。偶然にも一番端に座っていた私の隣に亜美が座った。乾杯をしてがやがやと話はじめる参加者達。何気ない会話が続いていた。

こういう場は苦手な私は黙っていたが、隣に座っていた亜美が突然話かけてきた。

「あまり話さないんだね?」
「こういう多人数で話をするのってあまり得意じゃないんだよ」
「そうなんだ」
「そういえば、青葉、今日は元気なかったよね?」
「ワタシのせいだと思う。実はこの前、告白されたんだけど断っちゃったから・・・」
「亜美って結構モテるよね?他にも告白されているようだけど、断ってるの?」
「うん、何人か忘れたけど・・・みんなワタシのことを好きだって言ってくれるんだけどワタシのタイプじゃないし、なんか違うんだよね」
「そうなんだ。ちなみに亜美のタイプってどんな人?」
「ワタシのタイプか・・・イケメンでワタシの心を大きく包んでくれてワタシだけを本気好きって思ってくれる人かな」
「イケメンで包容力のあって自分だけを見てくれるって感じの人かぁ」
「そんな感じだね。イケメンがいたら思わず突っ走ってしまうかも」

なんだそれは?少女漫画の主人公にでもなって白馬の王子様でも待ってるのか?そんな理想を夢見てるだけか。そんなことを思いながら亜美の話を聞いていた。

飲み会が終わると、最後にみんなで連絡先の交換をすることになった。これからも仲良くしていこうという意味でもあったのだろう。どうでもよかったのだが、亜美とも連絡先の交換をした。

■ 好奇心と発動

私は川島亜美に何の感情も抱いていなかったが、何人もの男性に告白されて断り続けているという部分に興味があった。まさに男殺しというべき女性であることは間違いない。この興味は次第に好奇心へと掻き立てられる。もし私が亜美を攻略して見事に口説き落とすとしたらどういう手段を使うのだろうか?そんなことを想像していると、また私の悪い癖がでてきた。それは亜美を攻略してみたいという好奇心。その感情は次第に大きくなっていって歯止めがきかなくなってきている。しかし、恋愛感情もない相手を攻略するのは、人道に反する行為だ。私の心の中でその葛藤が続く。亜美に対して何かしらの感情を持てばいいのではないか?どうなるかわからないが、亜美に感情を抱く可能性は十分にある。とりあえず攻略法だけでも考えてみるか。そう思った私はどう攻略していくのか考えはじめた。

まず、亜美は他の男性からちやほやされているので一般的な恋愛テクニックを使っても効果は薄そうだ。それに相手は理想を追う夢見る女性。しかし所詮は理想であって現実ではない。その理想を打ち砕くことができれば攻略できるかもしれない。理想を打ち砕く方法とは現実を見せつけて夢から目を覚ましてやることなのかもしれない。しかしどうやって現実を見せつけるか?あれこれ考えていると私は理想を打ち砕くということに捉われすぎていることに気が付いた。現実を見せつけるのは最初でなく一番最後でいいのではないか。まずはそこに至るまでのプロセスを考える必要がある。そう思った私は最初に何をしていくべきか、そして何をしていくべきか、意図しないことが起こった時はどう対応するか、考えはじめた。

相手が思わせぶりな態度をとるのであれば、私も同じようにすればいい。ただ同じようにするのではなく、その中に巧妙な手口を含ませる。とりあえず誰がどう見ても私が亜美に好意を抱いていると思わせて、亜美の心をゆさぶっていく。私の行動が理解できなくなるくらい困惑させていく。そして相手が感情的になった時に、こちらも感情的になってお互いに感情をぶつけ合う。そのタイミングで現実を見せつけて理想を打ち砕く。そして相手のハートを突くことができれば攻略できるのではないだろうか。しかし、この方法には少し時間がかかりすぎてしまうという問題がある。そして、もし私が亜美に対して何の感情も抱かなければ、この行動は中断しなければならない。なぜなら攻略してしまったら、必然的に亜美と付き合うことになるのだ。ただの好奇心だけで付き合うことはできない。どちらにしても私の感情がどうなるか賭けになるが、攻略へ行動を実行していって様子をみていくことにするか。そう思った私は考え出した攻略を実行していくことにした。その前に、この攻略法の実行にあたって、もう一つ自分の中でルールを設定しておかなければならないことがあった。それは、どんな雰囲気になっても絶対に先走って告白しないこと、感情的にならずあくまで冷静に行動していくこと、周りや本人にどんなこと聞かれても否定し続けること、相手が感情的になるまで待ち続けること。まさに根競べになるが、これらのことは絶対にルールに従って行動していかなければ、この攻略法は無駄になってしまう。

あとは最後の仕上げをどうするか。つまり亜美のハートを突く方法。ただ「好きです、付き合ってください」というだけでは、他がやってることと変わらない。もっと大きな感情をぶつけて、それが相手に伝わらないといけない。そこは伝え方、言い方、表現力の問題だ。どんな言葉で伝えるべきか考えてみるが、どれだけ考えてもいい言葉が浮かんでこない。うーん・・・普通の言葉っていう考えが間違っているのかもしれない。普通ではなく異常だったらどうだろうか?感情をぶつけるわけなので、普通の事じゃなくて異常なくらいなほうが伝わるのではいか。そうだ、狂おしいほど伝えればいいのだ。それにはあれこれ飾った言葉なんか必要なくて、ストレートでいい!

私は全体的なプロセスがまとまったところで考え出した攻略法を実行していくことにした。

■ 特別扱い

次の集会から私の行動ははじまった。亜美に対して「今日も綺麗だね」、「そのアクセサリーに会ってるよ」などと褒めてみたり、マメに気を遣ってみたり、過度に優しくしてみたりした。まるで今までの私ではない姿は亜美も不思議に感じているようだった。その次の集会の時も同じように繰り返した。そしてまた次の集会の時も同じ振る舞いをし続けた。褒めたり気遣ったり優しくするのは恋愛テクニックの一つだが、自分の好感度をアップさせることが目的ではない。あくまで亜美に好意があるということを意識させることが本来の意図なのだ。さすがの亜美も「最近、ワタシに対して態度変わってない?」と聞いてくるが、私は「そんなことはないよ」と言って誤魔化し続けた。

そんな私の振る舞いは周りの誰からみても、亜美に対して特別扱いしているのがわかるほどだった。周りの人からは「亜美のこと好きなの?」と聞かれることもあったが、それでも「別になんとも思ってないよ」と誤魔化し続けた。しかし、周りは完全に疑っている。次第に周りからは私が亜美に好意があるという噂にまで発展していった。それでも私は何を聞かれても「亜美のことは別になんとも思っていない」と貫き通した。亜美は鈍感なのか、まだ意識しているように思えなかった。それでも私は態度を変えず亜美への特別扱いをし続けた。誰がどう見ても明らかに亜美に対する私の振る舞いは好意を抱いているようにしか見えない。周囲の疑いの目はどんどん増すばかりだが、これも私の思惑通りだった。つまり周りが動き出すと、本人にも伝わるはず。伝われば意識していくはず。周りがどれだけ疑いの目を持って、それが噂になればなるほど私の思い通りになっていく。おそらく亜美本人にも「あの人、絶対亜美に気があるよ」と言う人でてくるはず。それでいいのだ。ただ、周りの目を気にして絶対に感情的になってはいけない。あくまで冷静に特別扱いを続けていくことが今は重要なのだ。

一ヶ月ほど経ったある日、亜美の態度が少し変わった。どうやら私を少し避けているようだった。ついに亜美も意識しはじめたと感じた私は少し振る舞いを変えてみることにした。私のちょっとした悪戯心かもしれないが、亜美ではなく別の女性を特別扱いしてみた。これで亜美の態度がどうなるのか観察してみたかったのだ。一日だけではわからないので、次の集会日も亜美とは口を聞かず、別の女性を特別扱いしてみた。ちらっと亜美の表情を伺っていると、なにやら不思議そうな感じと困惑しているようだった。今まで自分が特別扱いされていたのに、それが突然他の女性を特別扱いしているのだから、わけがわからないだろう。私のこの行動は、亜美を嫉妬させるためではなく、少し不安にさせて困惑させることが目的なのだ。結局、集会の二日間は亜美とは口を聞かず、他の女性を特別扱いしていた。周りからは私と亜美に何かあったんだろうかと思われたに違いない。

次の集会日、私は再び、亜美を特別扱いするようにした。亜美は少し不思議そうな表情をしていたが、私を避けているような態度ではなく、いつもの態度だった。次の集会日も、またその次も、亜美に対する特別扱いが続く。次第に周りからは「思い切って告白しなよ」、「勇気を出して想いをつたえるべき」とアドバイスされるようになった。もう私が亜美に気があることが前提になっているのだ。それでも私は「亜美のことは何とも思っていない」と言って自分の意見を貫き通した。周りは私と亜美を二人きりにする裏工作までしだした。ある日、集会が終わるといつも一緒に帰っていた人達が「用事があるから」といってさっさと別の場所へ行き、亜美と二人で帰ることになった。私はあきらかに裏工作していることはわかっていたが、二人で話をするのもいいだろうと思ったので見知らぬふりをした。二人で歩きながら話をする。亜美は少し恥ずかし気な態度で話をしている。いつ告白してもおかしくない雰囲気だが、絶対に先走って告白してはいけないというルールを厳守していたので、それを徹底した。その時はただ二人で話をしただけでお互い帰宅した。

次の集会日、周りからは「もう告白した?」などと聞かれたが、あくまで私は「告白もなにも亜美のことは何とも思ってない」と言い張った。しかし、亜美への特別扱いは続けた。周りからは”私がフラれるのを恐れてる”とまで思われるようになっているようだった。「勇気を出して」、「怖がっててもはじまらないよ」などと周りは言うが、それでも私は「だから違う」と言って否定し続けた。ところで、最近の亜美はかなり私を意識しているようで、特別扱いされている時も、どこかしら恥ずかし気で複雑な表情になっていた。集会メンバーのほとんどは間違いなく私が亜美に好意を抱いていると疑い、噂にまでしている。この状況下であっても、私は焦らず冷静に特別扱いを続けた。

■ 本人からの疑い

いつも男性に好意を持たれたら、すぐに告白されてきた亜美だが、今回ばかりはわけがわからなかった。周りからは「絶対あの人、亜美に気があるよ」と言われるし、私の特別扱いはどう考えても自分に気があるに違いない。しかし、誰が聞いても私は「別に好きじゃない」と言い張る。亜美はわからないことばかりで困惑していた。集会メンバーに噂されたり裏工作されて二人きりにされたり、もうこんなわけのわからない状態を何とかしたいと思っていた。そこで亜美はハッキリ聞いてみようと思った。連絡先の交換はしていたので私の電話番号を知っていた。そしてある日の夜、亜美から電話がかかってきた。

「あの、亜美ですけど、ちょっといい?」
「どうしたの?珍しいね」
「今、なんというか、集会メンバーの中で噂になってること知ってるよね?」
「噂?あーそういえば何か言ってるよね。それがどうしたの?」

私はわざとすっとぼけた。

「うーん、なんか聞きにくいんだけど、もしかしてワタシに気があったりする?」
「うん?いや別にそんなことないけど、どうして?」

まだだ!まだ感情的になってない。最後の仕上げの段階ではない。私はそう心の中で思っていた。

「だって、その・・・なんかワタシにだけ特別扱いしてるって感じがして・・・」
「そうかな?ただ、亜美は話しやすいからかもね」
「・・・そっか・・・それだったらいいんだけど、すごい噂になってるから」
「まあ、俺は噂なんてどうでもいいし、誰になんと思われようがいいけどね」
「それならいいんだけど、勘違いされたままって嫌じゃない?」
「別にどうでもいいよ。勘違いされてるのは俺でしょ?」
「そうだけど、少しそこに気を遣ったほうがいいと思う。噂は酷くなるばかりだし」
「うーん、まあ話はわかったよ」

これで電話を切ったが、亜美がかなり意識していることはわかった。そしてここが分岐点になっていた。私は亜美を特別扱いしはじめてから2ヶ月経って、何気なく可愛い仕草や少し恥ずかし気な態度をする亜美が以前にも増して可愛いと思っている。ここで中断するか続行するか少し考えたが、もし攻略できて付き合うことになってもいいと思ったので続行することにした。あとは感情的になるのを待つだけだ。

その後も私は態度を一変させることなく、亜美への特別扱いを続けた。かなりじらしている感じに思えるが、この方法はあくまで感情のぶつけ合いにならないと意味はない。それまでは冷静でいるしかないのだ。あと一歩のところまできていると感じた私は、もう少し大胆になって亜美を特別扱いするようにした。私は「亜美はめちゃくちゃ可愛」、「亜美のためだったら何でもできる」、「亜美のことばかり考えてる」、「亜美の彼氏になれたらいいなあ」など、大胆な言葉を口にしたおした。他の誰が聞いても恥ずかしくなるような言葉で、意味的には遠回しに告白してると思われるほどだった。さすがの亜美もそんな言葉を聞いて照れ臭くなっている。もはや誰もが私が亜美に好意を持っていることは間違いないと確信している。周りからは「最近、大胆だね」、「もういい加減、告白しなよ」、「片想いのままじゃ始まらないよ」などと私に言ってくる。しかし、それでも私は「別に亜美のことは何とも思ってない」と否定し続けた。否定しても「絶対嘘」、「もう素直に認めなよ」と言われてしまうほどになった。亜美のほうも「絶対、あの人、亜美に気があるよ。亜美はどう思ってるの?」などと質問されているようだ。私は”亜美のことは別になんとも思ってない”という意見を貫き通しながらも、大胆な特別扱いを続けた。

さすがの亜美も私に好意を持たれているのは間違いがないと確信を持ち始めていた。ただ、ハッキリしたことはわからないし、私にそれを聞いても「別にそんなことはない」と言い返される。それは私が周りの言うことを否定し続けているのを見ていたから。好意を持たれているという確信は持てそうだが、私はあくまで否定し続ける。もはや亜美にとってハッキリしなくて意味のわからない状態になっていた。それに以前にも増して、周りは騒ぎ出して噂もひどくなっていくだけだった。亜美は心の中でモヤモヤしだしていた。

今のこの状況は私の思惑通りに進んでいた。周りが騒げば騒ぐほど、亜美の心の中を揺さぶることになる。それでも特別扱いしてくる私の行動が理解できずかなり困惑してしまう。亜美がもっともっと困惑してわけがわからなくなっていけば私の思う壺なのだ。そしてじらしてじらし続ければいいのだと思っていた。

ここまでくると、私と亜美を無理にでも引っ付けようとする人もでてきた。私にこっそり気持ちを聞いてきたり、亜美を説得してみたり、まるで愛のキューピット役にでもなっているかのような行動だ。しかし、私はそれにも屈しなかった。あくまで気持ちはないと否定し続ける。しかし、この無理矢理に引っ付けようとする行動と私の冷静さが、亜美の理性を失わせるきっかけになっていくことになる。

■ 感情伝達と結末

私が亜美を特別扱いしてもう3ヶ月経つ。もういい加減にしてほしいと言いたいぐらい周りからのお節介な行動。そんな状況の中、わけがわからなくなっている亜美はだんだんイライラしてきた。それでもそのイライラを抑えようと必死にこらえる。無理矢理に引っ付けようとされているのはわかるが、亜美にとって重要なのは私の気持ちであった。私に聞いたとしてもちゃんと答えてくれないが、それとは裏腹に特別扱いしてくる。こうなると”何なのこの人?”という気持ちになって本当にわけがわからないのだ。

私は亜美の表情からイライラしているのを抑えているのがよくわかった。顔がひきつっていて、何か言っても苦笑いしている。しかし、私はもっともっとイライラして、理性を失うのを待っていた。怒らせればこっちのものなのだ。私はいたって冷静にいつものように接していったが、それが亜美にとっては余裕があるように見えて、余計に苛立たせているようだ。

ある日、ついに亜美は不機嫌な表情になり、私に対して無視するようになった。私が何か言っても「話してこないで」と言う。これはもう限界にきている。いつ感情が爆発してもおかしくないのだ。そう感じた私は「ちょっと帰りに二人で話をしよう」と声をかけた。亜美は不機嫌な表情で「わかったよ」と言った。一緒に帰ると周りの目があるので、帰り道にある公園で待ち合わせすることにした。

集会が終わり、待ち合わせした公園のベンチに座って待っていた。するとかなり不機嫌な表情をした亜美がやってきた。もはや爆発寸前という感じだった。私はこれからその起爆スイッチを押すのだ。亜美はベンチの前にきて「話って何よ?」と聞いてきたので「何か怒ってる?」と聞いた。すると亜美はついに理性が切れた。

「一体、あなた何なの?」

完全に感情的になっているので、私も感情のスイッチを入れた。

「何なの?ってなんだよ?」
「ワタシ、この前、気を遣ったほうがいいって言ったよね?なのにあなたの態度は変わらないじゃない!」
「俺は普通にしてるだけだろ!」
「どこが普通なのよ!噂もあなたの態度も酷くなってるじゃない!もうわけがわかんないよ」
「わけがわからないって何がだよ?」
「あー何もかもわけがわからないのよ!一体、何考えてるの?」
「何考えてるって言われても困るよ」
「もう正直に言ってよ!」
「何をだよ?」
「ワタシのこと、どう思ってるのよ?あなたの本当の気持ちを言ってよ!」
「じゃあ、言ってやるよ!亜美、大好きだよ。好き好き好きたまらなくたまらなく好き。好きなんだよ。もう好きで好きで狂いそうなくらい好きなんだよ」
「だったら、どうして今まで告白してこなかったのよ?」
「簡単に告白なんかしても軽く見られるだけだろ?こんな強い想い、簡単に伝わるもんじゃないって思ったからだよ!悪かったな、イケメンじゃなくて!」

亜美の怒りはおさまってきた。そして涙を流しながら小声で「イケメンとかもうどうでもいい・・・」と呟いた。鼻をすすりながら涙を流す亜美。私も冷静になり「ごめん、泣かせてしまって・・・」と言った。

「違うの。嬉しかったの。こんなに好きだなんて言われたことなかったから・・・」

亜美は涙を流しながらそう答えた。

「俺の想い、伝わった?」
「うん、すごく伝わってきた・・・」

それから亜美はベンチに座りわんわん泣き出した。私は隣で「もう泣くなよ」と呟きながら、亜美の頭を撫でていた。私はそっと「亜美、彼女になってほしい」と呟いた。亜美は涙を浮かべながら、私の目を見て「はい」と答えた。相手に対する強い想いとは時として相手の持つ理想までも打ち砕く力を持っていると思う。理想は理想、人の持つ強い想いは現実のものなのだ。私は今回、感情をぶつけ合うこと、現実であるこの強い想いをぶつけることに賭けてみたのだ。そしてそれは見事に伝わって亜美のハートを突くことができた。ここに至るまで時間がかかり、忍耐勝負にもなったが、この男殺しともいうべき理想を追う美少女を見事に攻略したと言えるだろう。その後、私と亜美は付き合うことになった。

半年後、お互いに趣味や考え方が合わないという理由で亜美と別れることになったが、お互いに多くのものを得た気がする。今は何をしているかわからないが、少なからず理想を追う夢見る美少女から現実と向き合う美少女になっていると信じたい。恋愛は幻想であるといえばそれまでだが、その心の中にあった想いは大切にしたいと思う。
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