はじめての恋愛攻略

このストーリーはフィクションであり、登場人物名などは仮名(架空)であり、実在のものとは関係ありません。

プロローグ

私が10代頃、女の子にモテないどころか恋愛のやり方も超下手だったといえるだろう。付き合った人も何人かいたが、フラれることのほうが多かった。そんな私が恋愛心理学の勉強をはじめた理由は、中学二年生の頃に好きになった女の子がキッカケだと言える。2回告白して2回ともフラれたのだが、中学校を卒業して以来、会ってもいないのに何かと言えばその女の子のことが頭に浮かぶ。まるで何かにとりつかれているようだった。この正体は一体何だろうという疑問が私を心理学という世界へ導いた。それが19歳の頃だった。最初は大きな書店で購入した恋愛心理学の本を読んでみた。この本は非常に興味深いことばかり書いていた。しかし、恋心の心理というのが中心に書かれていて、恋愛の本質が書かれたものではなかった。私が知りたかったのはもっと深いところにあるものだった。それを知るためにはもっと難しい本を読む必要があると思った私は精神分析に関する本を読むことにした。わからない専門用語は心理学用語辞典で調べながら時間をかけて読んでみた。その本を読み終えた私は心理学に関する本を読む自信がついてきた。心理学用語も結構覚えることができた。しかし、恋愛の本質的な部分がまだハッキリしないと思った私は、恋愛心理学でも専門書レベルの本を読んでみようと思った。しかし大きな書店でも恋愛に関する本は恋愛テクニックが中心になっているものばかりだった。専門書はみつからなかったが、私はふと、恋愛というものに捉われすぎていることに気が付いた。そこで心理学の基礎となる本を見つけた。その本には恋愛に関することは何も書いてなかったが、まず基礎を学べば何かが見えてくるんじゃないかと思った。その本を購入して読んでみると人の心理についていろいろわかってきた。私は心理学というものを勘違いしていたことに気づいた。心理学はあくまで人のことを理解するための一つの道具でしかないということ。それが全てではないということ。ただ、この知識は今後の私の人間関係に大きなものとなった。

その後、私は恋愛のメカニズムや理論、ホストやホステスのテクニック、他の心理学者が述べる恋愛論に興味を持った。そういった本を片っ端から読んで学んでいった。もちろん簡単な恋愛テクニックの本も読んで、この方法はこういう心理を利用したものだと理解できるようになった。それから心理学に関するいろんな本も読むようにした。エゴグラムや心理カウンセラーの会話術など、あらゆるジャンルの本を読んだ。海外の愛の深層心理なんて本や、コンプレックス、嫉妬、サドやマゾヒズム、性に関する心理などあらゆる本を読み続けた。好奇心旺盛の私は心理学に没頭していたのだ。

心理学に関する本を読み始めてから2年後、自己分析もしていた私の中で一つの殻が破けた瞬間が訪れた。私の恋愛に対する価値観や女の子に対する接し方が変わった瞬間だった。それはまさに恋愛覚醒したともいってもいい。そして自分らしい恋愛テクニックを確立させた瞬間でもあった。その後、その恋愛テクニックを使ってあらゆる女の子を口説いていったり、恋愛相談を受けたりするようになっていった。

恋愛テクニックというのは相手によってさまざまなので無限にあるといってもいい。子供の頃から人のことをすぐ見抜ける力があったので、狙った相手の特徴や性質を見極めることからはじめる。そして”その相手をどういう方法で口説くか?”という攻略法を考えて実行するのが私の恋愛テクニックなのだ。好奇心旺盛の私は狙った相手が難しければ難しいほど攻略したくなるという癖がある。攻略法の基本は男性だからとか女性だからという概念を捨てて相手を一人の人間として心と心で接していくこと。

その私がこれからどのような攻略法を考えて実行していくのか、恋愛相談を受けて隠された真実をどのように暴いていくのか、それがこれから書いていくあらゆるストーリーである。

■ 可愛い後輩

私は専門学校を卒業した後、一年間は特別研究生として学校に通い続けていた。季節は6月の梅雨時。湿気が多くジメジメして体はベタベタしている。そんなある日の昼休み、二つ年下の後輩である里中慶子と学校内でばったり会って「こんにちは、先輩!」と声をかけられた。私も「こんにちは!」と返した。里中慶子は背丈が小さくツインテールで目が大きく細身のとても可愛らしい女の子だ。私が特別研究生になって間もない頃に、講師のサポート役として授業に参加した時にいた生徒の一人が慶子だった。慶子と出会ってからは学校内で会うたびに話をするようになっていた。

「今から昼食ですか?」
「ああ、どこ行こうか迷っててね」
「よかったら近くに美味しいパスタの店あるんですが、ご一緒にどうですか?」
「友達と一緒じゃないの?」
「友達はお弁当持ってきてるみたいなんで、今日は一人なんです」
「じゃあそのパスタの店いこうか」
「はい!」

こんな可愛い後輩と二人で昼食できるなんてラッキーだと思っていた。慶子が案内してくれたパスタの店は、学校の近くだったが入り組んだ場所にあったので私も知らなかった。店内は結構静かで落ち着いて話ができるような雰囲気だった。パスタを食べながら慶子と何気ない日常会話をしていた。そして食後のコーヒーを飲んでいると「先輩、今度でいいのでアタシの話を聞いてもらえますか?」と慶子が言ってきた。何の話か全くわからなかったが「いいよ。いつにする?」と聞いてみた。すると慶子は「先輩の連絡先、教えてもらっていいですか?」と言ってきた。私は別に生徒と先生の関係でもないので「別にいいよ」と言って携帯番号とメールアドレスを教えた。すると慶子も自分の連絡先を私に教えてきた。一体何の話かわからないが、可愛い後輩の話を聞いてあげようという気持ちであった。

それから二日経った夜、突然慶子から電話がかかってきた。

「もしもし先輩ですか?里中です。突然ごめんなさい。今いいですか?」
「いいよ。どうしたの?」「話を聞いてもらいたくて電話しました」
「ああ、この前言ってた話のことだよね?」「はい、そうです」
「それで聞いてもらいたい話って?」
「あの・・・ちょっと言いにくいんですが、アタシ、一年半くらい付き合ってる彼氏がいまして・・・」
「ほうほう、それで?」「その彼氏との関係についてなんですが・・・」
「その前になんで俺に彼氏の話をしようと思ったの?」
「先輩、確か趣味で恋愛心理学勉強してるって言ってたじゃないですか?」
「ああ、前に言ったね。よく覚えてたね?」
「はい。だから先輩なら何かいいアドバイスをくれるんじゃないかと思いまして・・・」
「いいアドバイスできるかわからないけど、俺でよければ話を聞いてみるよ」

慶子の話によるとこの半年間、その彼氏とほとんど会ったり話したりしていないということ。お互い好きという感情がもうないかもしれないということ。そして、その彼氏には別に好きな人、もしくは浮気をしているんじゃないかということだった。話を聞いた私はすぐに、その彼氏との関係はマンネリ化してるどころかほぼ終わっているのではないかと思えた。しかしハッキリ言ってしまうと傷つけてしまうかもしれない。

「先輩、アタシ、彼氏とどうしたらいいと思いますか?」
「慶子ちゃんの気持ちはどうなの?」
「正直、もう好きって言えないです」
「それでも彼氏との関係を続けていきたいって思う?」
「それが難しいんです。別れるって考えると心にぽっかり穴があくような気がしまして・・・」
「まあ、その気持ちはわかるよ。でも、どこかで決着つけないと、このままズルズルするのもあまり良くないかもね」
「そうですね。それともう一つあるんですが、実は別の男の子から告白されたんです」
「そうなんだ!それでどうしたの?」
「アタシには彼氏がいるからって断っちゃいましたけど、本当にこれでよかったのかなって思っています」
「なるほどね。まあ慶子ちゃん可愛いからモテるだろうし、他にも告白されるかもしれないね」
「そんな、アタシ、そんなに可愛くないですよ」
「とりあえず彼氏との関係をなんとかしないとね」
「そうですね。考えてみます。先輩、話を聞いてくれてありがとうございました」
「また何かあったらいつでも連絡してよ。俺でよかったら話は聞くから!」

慶子との電話が終わった後、やはりハッキリ言ったほうがよかったのかもしれないと思った。それに話をしてみてわかったことは、慶子は自分の話をしたがるタイプだということ。それにしても、あの調子だと彼氏との関係をなんとかするのは難しいかもしれないなあと思っていた。

■ 後輩の攻略法

その後、何度か慶子から電話がくるようになっていた。彼氏の話だけでなく、何気ない日常会話からお互いの趣味の話、また他の男子生徒から告白されたなどの話をするようになっていた。相変わらず自分の話をしている時は夢中になっている慶子だが、そういうところも可愛く感じた。

私が慶子と最初に出会った頃は可愛い後輩という感情でしかなかったが、それが次第に恋愛感情になってきていることに気づいた。しかし、慶子には別れられないでいる彼氏がいて、告白されても断っている。私がまともな方法で告白しても十中八九フラれるのは間違いなさそうだ。そもそも私は慶子をどうしたのだろうか?彼氏と別れさせて付き合いたいのか?いや、付き合うというのは結果にしかすぎない。それより私は慶子を口説きたいんだ。あの可愛い後輩が、今では好きな女の子になっている。その好きな女の子を見事に攻略してみたいんだ。これは好奇心旺盛である私の悪い癖でもあるのだ。それならば慶子を攻略する方法を考えてみることにしようと思った。

まずこれから慶子とどう接していくかシュミレーションしながら話し方のルールを設定してみた。まず慶子に自分の話をさせて親身になって聞いていく。相談事に関してはアドバイスは極力しないほうがいいだろう。慶子が自分の短所を話した時は、それを長所に変えて返答していく。彼氏の話をした場合、否定はせず肯定的に答えるようにする。嬉しかったことや楽しかったことを話した時は、それを受け入れて共感していく。それを繰り返していくうちに、慶子の話を親身になって聞いてくれて、淋しさを紛らわせてくれるたった一人の存在になれる。そこにタイミングを見計らって冷たくする場面を加えれば不安や嫉妬心を抱かせることもできる。二人で会った時は軽く褒め言葉を含ませておけば少しは効果があるだろう。そうしていくことで私は慶子にとってなくてはならない存在になればいい。あとはトドメにハートを突けばいいが、そんな存在になれば自動的に慶子のほうからアクションがあるはず。アクションがない場合は冷たい態度をとるか、もしくはこちらから少し強引に迫ればいい。ルールの設定と攻略法が決まったところで早速実行していくことにした。

それから慶子と電話で話す時は攻略法の通り、設定に基づいて話を聞いていった。慶子が好きな音楽や映画の話をしてる時は親身になって聞いて感動シーンの話をしてる時は出来る限り共感した。『アタシ人に甘すぎるところあるから』と言った時は『慶子ちゃんって人に優しいんだね』と言ってみたり、自分のこれからについての相談事は親身になって聞いてアドバイスは極力せずに話を受け入れるようにした。彼氏の話をした時は「はぁ・・・」と少しため息をつきながらも否定はせずあくまで肯定的に答えるようにした。また、学校で会った時は『そのネックレス可愛いね』、『慶子ちゃん可愛いからワンピースもよく似合うね』などと誉めてみたりした。そして次第に慶子から頻繁に電話がかかってくるようになった。
ある日、慶子から「先輩と話しているとすごく楽しいんです!」と言われた。それを聞いた私はあともう少しだと思った。ここで私は「慶子ちゃん、いつも夜は暇だから、毎日でも話しようか」と言ってみた。すると慶子は「本当ですか?アタシも夜は一人なので結構淋しいから本当にしちゃいますよ」と言った。それから毎晩のように慶子から電話がかかってきた。もちろん電話代のこともあるので「明日は俺から電話するよ」といって交互に電話するようになった。もはや、慶子にとって話を聞いてもらえる人、淋しさを紛らわせてくれる人は私をおいて他に誰もいないのだと確信できた。

このタイミングでちょっと冷たくしてみようと思った私は電話がかかってきても「ごめん、今日はちょっと忙しいから切るね」といって話を終わらせたり、慶子の話を聞いても相槌する程度で言葉を減らした。数日間そういうことを続けていると慶子から「先輩、最近冷たくないですか?」と言ってきた。冷たい態度をして相手を不安にさせることができた。これはまさに私の思う壺だった。その後はまた優しく接するようになるが、ときどきは冷たい態度もとってみた。そうしていくうちに慶子は私なしではどうにもならない状態になっていると思った。そこで私は「俺達の関係って友達?」という質問をしてみた。慶子は「うーん」といって黙り込んだ。黙り込むということはそうでないという意味なのであと一押しだと思った。そしてある日、偶然にも私は他の女の子の相談を聞いていた。他の女の子から相談を受けていたことを慶子に言ってみると、かなり不機嫌になった。これは嫉妬させることが目的だったのだが、私の思惑通りに的中したのだ。あとは二人で会って自動的にアクションを起こしてくるのを待つのみだと思った。

■ 攻略成功と結末

慶子にとって私という存在は特別なものになっているのは間違いない。ただ、そこに恋愛感情があるかはまだわからないが、私から簡単に離れることはできないだろうと思った。ある日、慶子から電話がかかってきて「先輩、ついに彼氏と別れちゃいました」と言った。私は「よく決心できたね!どうして?」と聞くと「先輩がいてくれたからですよ」と答えた。私はついに彼氏と別れさせることに成功したのだ。しかも私がいるからという意味深な理由なのだ。あとはもういい雰囲気を作ってアクションを起こしてくるのを待つのみとなった。問題はその雰囲気を作る場所をどこにするかだ。そこで考えたのが、学校の近くにある小さな公園で入り組んだ場所にあるので人通りも少ない。そこに呼び出そう。

ある日、慶子のいる教室に行った。慶子は大きな声で「あっ!先輩、こんにちは!」と挨拶してきた。私は慶子が座っている机の前に行って、小さな声で「今日、授業が終わったら二人で少し話さない?」と聞いてみた。慶子は「いいですよ。でも先輩って17時までいるんですよね?アタシ、今日の授業は16時までなんですよ。どこかで待っていましょうか?」と言った。私は「じゃあ二階の自動販売機の前でどう?あそこ休憩室みたいになってるから」と言うと慶子は「わかりました。じゃあ待ってますね」と言った。

17時になり、待ち合わせしている自動販売機の前に行くと、慶子は椅子に座って待っていた。

「お待たせ。ごめんね、待たせちゃって」
「いえいえ、いいですよ。どこで話するんですか?」
「ちょっとそこの公園にでも行こうか」
「はい」

そういって二人で近くの小さな公園へ向かった。

私と慶子は公園のベンチに座った。今日は雨も降っていないし、人通りも少ないのでチャンスだと思った。最初はいつものように慶子が自分の話をしはじめた。私は話を聞きながらタイミングを見計らっていた。アクションを起こさせるには、そのキッカケを作る必要があるのだ。なかなか慶子の話が終わらないが、私は親身になって聞きながらひたすら待ち続けた。そして会話が途切れた。このタイミングだと思った私は話を切り出した。

「慶子ちゃん、もし、俺がいなくなったらどうする?」
「先輩がいなくなるなんて・・・絶対に嫌です。どうしてそんなこと聞くんですか?」
「俺もこの先どうなるかわからないからね」
「いなくなっちゃうんですか?」
「今はいるけど、この先何があるかわからないからね」
「この先何があるんですか?」
「たとえば、俺に彼女ができるとかかな」
「それは・・・その・・・」
「今はいないけど、この先のことだよ」
「先輩、好きな人いるんですか?」
「いやいないけど、もしそうなったら慶子ちゃんと今までみたいに話ができなくなるかもしれないから」
「そんなの・・・嫌です・・・」

慶子は沈黙してしまった。私もあえて黙っていた。すると慶子がいきなり私の前に立った。私も立ち上がると慶子は強く抱きついてきた。そして「そんなの・・・嫌です。絶対に嫌です」と慶子は小声で言った。「慶子ちゃん?」と私が声をかけると「先輩、友達以上の関係になりませんか?」と言ってきた。

「友達以上の関係ってどういうこと?」
「あの・・・だから、アタシが先輩の彼女になるって意味です・・・」

ついに私の攻略法が見事に成功した瞬間だった。
私は「じゃあ慶子ちゃんは今から俺の彼女ね」と言った。こうして私と慶子は付き合うことになった。

半年後、私の感情は急激に冷めていった。だからというわけではないが、お互いに価値観が合わないということで別れることになった。二人で話をしすぎたというのも原因の一つかもしれない。しかし、短いながらも付き合ったことは私にとっていい経験になったと思う。

今回の攻略法は会話術に普通の恋愛テクニックをブレンドしたものといえるだろう。その上で特別な存在になる、つまり精神的に依存させる私らしいやり方だった。そこまで難しい攻略法でもなかったが、私はこれからのストーリーでさらに難しい攻略法を次々と考え出していくのである。