ホステスの恋愛講座

このストーリーはフィクションであり、登場人物名などは仮名(架空)であり、実在のものとは関係ありません。

■ ホステスからの相談事

正月が過ぎた一月の中旬頃、突然、私の携帯電話が鳴った。その相手は以前、ネットゲームのオフ会で知り合った24歳の沢倉優里奈で連絡先は交換していたが、連絡がきたのは今回が初めてだった。

「もしもし、ずいぶん前に出会ったネトゲの優里奈だけど覚えてるかな?」
「ああ、覚えてるよ。久しぶりだね。突然どうしたの?」
「ちょっと相談したいことがあるんだけど、家だと親がいるから外で話がしたいんだけど時間作れないかな?」
「週末ならいいよ。うちの最寄り駅まで来てくれると静かなカフェがあるから、そこでどう?」
「じゃあ今週末の土曜日の13時にそっちの駅前までいくね。待ち合わせ場所は中央改札口でいいのかな?」
「そうだね。中央改札口の前で待ち合わせでいいよ」

何の相談事か予想もつかなかったが、親に聞かれるとまずいんだろうと思った。しかし、優里奈とは1年以上前に出会ってからネットゲーム内で少し話をする程度だったが、そんな私に何の相談があるというのだろう。しかも現在、私はネットゲームをしていないのによく覚えていたと思った。

土曜日の13時、私の家から近い最寄り駅の中央改札口に行くと優里奈が待っていた。沢倉優里奈は160cmに満たない背丈に栗色でロングヘアーに内巻きカールをかけていて前髪は下ろして、大きな目に鼻筋が通っていて頬は引き締まっているかなりの美人。しかも仕草や笑顔はかなり可愛いく見える女性だ。ネットゲームのオフ会でも優里奈に好意を持っている男性は何人かいたと思われる。今回、久しぶりに会ってみると一段と外見に磨きがかかって魅力的な女性になっていた。その後、二人で駅前にある静かなカフェに入った。アメリカンコーヒーを注文して、私は一口飲みながら話を切り出した。

「ところで、俺に相談したいことって何?」
「ワタシね、4ヶ月ほど前からラウンジでバイトしているんだけど、そのことで相談があるの」
「ラウンジでバイトってことはホステスでもしてるの?」
「うん。親には内緒でバイトしてるんだよ。あなた、たしか前に恋愛心理学とかテクニックを勉強してるって言ってたよね?」
「ああ、今も勉強は続けてるけど、それがどうしたの?」
「それって女性向けのテクニック?男性向けのテクニックも勉強してる?」
「もちろん両方のテクニックや心理を勉強してるよ」
「それならよかった。そんなあなたにワタシの相談を聞いてほしいの」

優里奈は相談内容を話しはじめた。その内容とは4ヶ月間、ラウンジでバイトをしているがほとんどお客さんから指名されることがない。つまり客がつかないということらしい。バイトなのでノルマはそこまでないらしいが、あまりにも客がつかないと辞めさせられる可能性があるという。一応、そのラウンジには接客方法が書かれたマニュアルがあって、その通りにしているがどうにも上手くいかないらしい。他のホステスも綺麗で美人な人が多いので自分には魅力がないのではないかと悩んでいるという。

「優里奈は外見的には魅力的だとは思うけどね。それで客がつかない理由が相談というわけかな?」
「ワタシ、魅力あるのかな?マニュアル通りにお客さんと接してるんだけど、次がないのよね」
「つまり同じ客が次に来た時に指名されないってわけだね?」
「そうなの。4ヶ月間、ほとんど指名がこないから、このままだとまずいのよ」

私は少し黙って考えてみた。優里奈の外見はそこまで問題はなさそうだ。男性を引き付ける魅力なら十分にあるはず。それでも客がつかないということは接客に問題があるのではないだろうか。そのラウンジの接客マニュアルがどんなものであるかはわからないが、会話に何か問題があるのかもしれない。

■ 接客テストと結果

優里奈の接客がどういうものであるか確かめる必要があると思った私は一つの案を出してみた。

「優里奈、今から俺がお客さんだと思って、接客してみて」
「え?ここで?」
「そう、ここで、今から俺はお客さんになる。あと最初の挨拶とかはいらないからね」
「わかった。やってみる」

優里奈は突然、私の左手をそっと掴んで腕時計を見た。

「カジュアルなファッションにこの時計、よく似合ってるね。あなた、結構センスいいね」

そう言うと優里奈はニコッと微笑んだ。

「ありがとう」
「カジュアルスタイルもカッコいいね。ワタシ結構好きだよ」
「それもありがとう」
「ところで、あなた、休日は何して過ごしてるの?」
「そうだね・・・基本は部屋で音楽聴きながらボーっとしてることが多いかな」
「へえーどんな音楽聴いてるの?」
「オールディーズって言って、50年代から60年代の昔の洋楽かな」
「それって、どんな感じの音楽なの?」
「単純なんだけど、その曲を聴いてると、その時代の風景とか頭に浮かぶんだよね。まだ俺は産まれてなかったんだけどね」
「そうなんだ。その時代の風景が頭に浮かぶ曲ってなんかすごいね。ワタシも聴いてみようかな?」
「オールディーズ集みたいなCD売ってるから興味があるなら買ってみるといいよ。安いし。たくさんの曲があるから大変だろうけどね」
「たくさんの曲があるんだ。あなたはたくさん聴いてるの?」
「ああ、めちゃくちゃいろんな曲を聴きまくってるよ」
「そうなんだ。オールディーズだっけ?すごく詳しいのね。すごい!」

また、そう言うと優里奈はニコッと微笑んだ。

「まあマニアックだけどね。俺の年齢でオールティーズ聴いてる人は少ないと思うよ」
「そうなんだ。オールディーズの他にも何か聴いてる音楽あるの?」
「俺は何でも聴くよ。でもまあ、昔の音楽が一番って感じかな」
「そうなんだ。何でも聴くって、音楽のことすごく詳しそうね」
「優里奈、もういい、わかった。一旦終わりにしよう」
「もういいの?わかった。それでワタシの話し方とか何か問題あった?」

私は少し黙って考えた。これは根本的に勘違いしているのと、魅力を引き付ける会話というものがまるでわかってない。しかし、その勘違いやわかっていないことを、ここで説明して簡単に理解できそうにもない。優里奈は少し特訓する必要があるが、どうしたものか・・・週末の土日は特に予定はないから特訓に付き合ってもいいが、あとは優里奈がどこまで理解して習得できるかが問題だ。とにかくこの場で言えることだけ伝えておくか。そう思った私は口を開いた。

「えっとね・・・話をする姿勢はそれでいいんだけど、基本的な部分で勘違いしているのと、魅力を引き付ける会話になってないんだよね」
「それってどういうこと?」
「最初、時計を見てカジュアルで似合ってるといって褒めたんだと思うんだけど、褒めるポイントが違うんだよ」
「でもお店のマニュアルにもお客さんを褒めるようにするって書いてあったから、その通りにしてみたの。違うの?」
「男性を褒めるポイントが違う。あと、音楽の話になった時、詳しくてすごいと言ってたけど、あれは誉め言葉になってないよ」
「そっか。褒め言葉になってなかったのね・・・」
「それと、褒め言葉の後、ニコッと微笑む仕草をしてるけど、あれは可愛いアピールでもしてるの?」
「褒め言葉の後に微笑んだらダブルで効果があるかなって思ったんだけど、それもまずかったりする?」
「会話の進め方もちょっと違う。もっと盛り上げないといけない。優里奈、少しの間、特訓する必要があるよ」
「特訓って話し方とか褒め方とかそういうの?」
「そう。今日一日で何もかもできない。週末、しばらく俺は予定ないから土日はここのカフェで俺が特訓に付き合ってもいいよ。コーヒー代出してくれるならね!」
「特訓して上手くいくのであればいいけど、大丈夫なの?」
「ああ、優里奈は基本的な部分から考え方を改めないといけないのと、問題はなんとなくわかったから大丈夫だと思う」
「わかった。土日の13時に来るようにするね」
「あと今日、ハッキリ言っておくけど、外見で勝負するのは捨てたほうがいい。外見を磨くなと言ってるんじゃないよ。あくまで会話で魅力を引き付ける。外見はオマケみたいなものだと思っておいたほうがいい」
「会話で魅力を引き付ける。外見はオマケ・・・よくわからないけど頭に入れておくね」
「それと褒めた後のニコッと微笑むのはいらない。可愛いアピールなんてしたら逆効果かもしれない」
「わかった」
「じゃあ、明日の日曜日から開始しよう。明日も来れるよね?」
「うん。じゃあ明日の13時にまたこのカフェで待ち合わせでいい?」
「それでいいよ」

私は家に帰って自分のまとめた女性向けの恋愛テクニックを読み直した。優里奈が最初に覚えるべきことは何なのかを考えてみた。会話術はそれなりに身に付いていて、話をする姿勢は現状のままでいい。問題は恋愛テクニックの部分だということがわかった。多くの男性は単純なところがあって、女性を外見だけで判断して選ぶのだが、それは一般的な恋愛での話であってホステスの世界だとそれだけでは通用しないのだろう。とりあえず、私なりにこれからの特訓のカリキュラムを組んでみた。

■ 女性向け恋愛テクニック講座

私はまず、優里奈が大きく勘違いしている男性の褒め方から教えていくことにした。次の日、駅前のカフェに行くと優里奈が待っていた。あらかじめノートとペンを持ってくるように言っておいたので、テーブルの上にそれが用意されていた。私が話を切り出した。

「今日はね、優里奈が勘違いしている男性の褒め方について教えるよ」
「男性の褒め方ね・・・ワタシ何を勘違いしているの?」
「女性は外見を褒めると効果があるけど、男性は内面的な部分を褒めないといけない。外見は髪型変えた時とか、たくましいみたいな感じだといいけど、その他の部分はあまり褒めないほうがいい」
「内面的な部分って?」
「男性が話す自分の考え方や価値観、趣味、好きなことかな。話をきいて、『すごい!深く考えてるね』とか『そんなことよく考えたよね、すごい!』とかそういう感じ。あと趣味を褒める時はゴルフだった場合、『そんなすごいショットだったんだ。それはすごいね』とかかな。基本は『すごいね!』というのが効果的かな」
「でも、趣味や好きなことがない人はどう褒めればいいの?」
「その場合は、価値観や考え方から能力を褒めればいい。『すごい物知りだね!』とか『頭がいいんだね!』とかそういう感じかな」
「仕事の話をされることがあるけど、その場合は何を褒めればいいの?」
「そうだね、例えば、俺が仕事をこなしたみたいなことを言った場合『仕事のできる人は大変だね』とか『人にできない仕事をこなすなんてすごい!』とかかな」
「そういう感じか・・・なんとなくわかってきた」
「あとは甘えながら『今度教えて』って言うのも一つのテクニックだね。男性は教えたがるタイプが多いから効果的かも」
「なるほど」
「大事なのは感情を込めて心から褒めることと、褒めすぎないように注意ね。根拠のない褒め方に聞こえるとお世辞にしかならないから」

優里奈は話を聞きながら必死にメモしていた。女性を褒める場合は身に付けているアクセサリーや服装など外見的な部分なので説明しやすいが、男性を褒める場合は内面的な部分なので、感覚を掴んでもらうしかない。はたして優里奈がその感覚をどこまで掴んだのかはわからないが、あとは実践して身に付けていくしかないだろう。

次の週の土曜日、いつものようにカフェに行くと優里奈がノートとペンを持って座っていた。今回と次は男性を立てるテクニックを教えていくことにした。

「多くの男性は自分が上に見られたくて、自分の考えを認めてほしいって意識があるんだよ。そこで男性を立てるという方法について教えるよ」
「男性を立てるってどういうこと?」
「男性が自分の考え方や価値観を話している時、自分の考えと違っていたとしても批判は絶対してはいけないんだよ」
「批判してはいけないってマニュアルにも書いてた」
「そういう時は相手の意見を尊重して『そういう考え方もあるんだ』とか『すごい考え方だね』とか言ってあげるといい」
「なるほどね」
「男性がそういう話をする心理の裏側には『俺ってすごいでしょ』って自慢したい意識があるんだよ。それを認めてあげるのも効果がある」
「そうそう!得意気な話をしてくるお客さんも多いのよ」
「そんな時は『よくがんばってね!』とか『すごいね!』とか言ってあげるってこと」
「そっか・・・ワタシ、心の中で何気に自慢話されてるって思って黙ってたんだけど、認めてあげるのね」
「あとは男性の優越感やプライドを傷つけたりしないことかな。『俺こんなに知ってるんだぜ』みたいな話をされたときは、つまらなそうにしないで『よく知ってるね』とか『さすがだね』みたいに言って、それを大切にしてあげること」
「たしかにそういうお客さんも多かった。『俺こんなにできるんだぜ』みたいな話をされたとき、ワタシは『へえーそうなんだ』で話終わらせてた。つまんなかったし」
「そこをつまんないで終わらせないことが重要なんだよ。プライドを傷つけてしまったら一発アウトだからね」
「わかった」

優里奈は先週に続き話を聞きながら必死にメモしていた。男性を立てるテクニックについても褒め言葉と同じく感覚を身に付けないといけない。その感覚をどこまで掴んだのかはわからないが、2日間にわたって私は説明し続けた。

「そういえば、お客さんの中で愚痴を言う人もいるんだけど、そういう時はどう対応すればいいの?」
「愚痴も自分の考え方を認めてほしいという意識があるから、認めてあげればいいんだよ。共感してあげるのもいいね」
「認めてあげて共感してあげる、か。なるほどね」

次の週の土曜日。今日から会話の盛り上げ方や進め方を教えないといけないが、これが最大の難関なのだ。ここから何回教えればその感覚が身に付くのかはわからないが、ここが最大のポイントとなる部分なのだ。

「今日からずっと会話術について教えていくよ。どうやって会話を盛り上げていくのか、どういう風に会話を進めていくのか、これが最大の難関だと思ってほしい」
「最大の難関ってことは難しいってことよね?」
「簡単に説明すると、上から目線じゃなくて目下の立場になって話を聞いて行く。つまり教えてもらう立場という感じ。そして、具体的なことを質問していく。もちろん途中で『教えて』とか言うのもありかな。最後は結果を聞いて受け入れて、共感できる部分は共感する。ここで今、言葉で説明すると簡単なようだけど、実際にやってみると難しいんだよ。その感覚を掴まないといけない」
「たしかに言葉では簡単かもしれないけど、感覚を掴むのは難しそう」
「下手したら質問攻めになってしまうから注意しないといけない。あと『なぜ?』という質問はなるべく控えたほうがいい」
「なんで『なぜ?』という質問は控えたほうがいいの?」
「質問攻めになりやすいのと、問い詰められてる感じがするからだよ」
「なるほど。確かに『なんで?なんで?』ってなっちゃうね」
「最初、俺が音楽の話をした時だけど『オススメの曲ってある?』とか『どんな風景が頭に浮かぶの?』とかそういう質問しなかったでしょ?そういう質問をして会話を盛り上げていくんだよ」
「それは難しいなあ。ワタシ、感覚掴めるかな?」
「今日一日では無理だよ。頭でわかってるだけで感覚で身に付けるために、これから俺と会った時、そのことを頭に入れながら、いろんな話をして身に付けていくしかないよ」
「わかった。頑張ってみる」

その後、私は4回ほど会話術を身に付けるための優里奈に付き合って話をしていった。最初のうちは質問が止まったり話題が途切れたりしていたのだが、だんだん感覚を身に付けてかなり上達していることがわかった。ここからはラウンジで実践あるのみなのだ。

■ 態度急変

私は今まで教えてきた恋愛テクニックの全体的な流れとしてもう一度、優里奈とカフェで会って話をすることにした。最終試験といったところだろう。最初に相談を受けた時とはまるで違うように会話が盛り上がり、褒め言葉も男性を立てるテクニックもそれなりに自然になってきていた。さすがラウンジで実践してるだけあって私が伝えたかった感覚を掴んでいるようだった。そして、最近、指名されることも少しずつ増えてきたという。

「あなたのおかげで、最近はちょっとだけど指名されるようになったの。本当にありがとう!」
「いやいや、俺が教えた恋愛テクニックがどこまで通用するかわからないけど、最初にここで話した時は本当にどうしようかって思ったよ」
「それにお店の人からも最近、話し方が上手になったって褒められちゃった」
「それはよかったね!ただし、俺が教えた恋愛テクニックはお店に訪れる多くの男性客に効果はあるかもしれないけど、俺みたいな人間には効果がないので注意しといてね!」
「あなたには通用しないってこと?」
「俺はプライドなんてとっくに捨ててるし、自分の考え方を他人に理解してもらおうなんて思ってない。褒められても嬉しいと思わない。まあ、そもそも俺みたいな人間はそんなお店に行かないだろうけどね」
「そうなんだ。だったら、あなたみたいな人間に効果があるテクニックってあるの?」
「俺も人間だからあるにはあるけど、かなり難しいとだけ言っておくよ」
「ワタシ、そのかなり難しいテクニックに興味あるなぁ。ねえ、どんな方法を使えばいいの?」
「うーん。まず、精神的な苦労もせず普通に生きてきた人にはできないかも。方法といっても説明しきれないよ」
「そっか。普通の人じゃ無理ってことね。ちょっと残念かも」
「でも、俺に効果があるテクニックを知ってどうしたいわけ?お店に俺みたいな人間が来るの?」
「そういうわけじゃないけど・・・」

私はこの段階で優里奈がなんでこんな方法を知りたがっていたのかわからなかった。私はどちらかといえば、女性を口説く攻略法を考えたり、人の恋愛の裏側の真実を暴いたりすることをしていたが、自分を攻略する方法なんて難しいとしか言えない。もし、私を攻略する女性が現れたとしたら、それは私にとってとんでもない存在だろう。なぜなら私は変わり者で捻くれているメンドクサイ人間だからだ。

私が教えれることはもう何もなかったのだが、優里奈はそれでも週末に話がしたいと言ってきた。もう少し話をして続けたいという。もう一ヶ月半もの間、毎週のように会って話をしている。まだ何か感覚が掴めてないのだろうか?それともまだ何か知りたいことでもあるのか。どちらにしても、私は会うことにした。土曜日、いつものように13時にカフェにいくと優里奈がいた。もうノートとペンは持ってきてないようだ。これからは実践練習したいのだろうか。

「俺が教えられることはもうないんだけど、まだ掴めていない感覚があったり、知りたいことがあるの?」
「その・・・あなたともう少し話がしたくて・・・」
「それは別にいいんだけど、もうかなりテクニックは身に付いてると思うけどね」
「うん。お客さんからの指名も増えてきたけど不安なの。まだ見落としがあるかもって」
「見落としがあったとしても、もう自分で見つけられると思うよ」
「ワタシと話をするのはもう飽きた?疲れた?」
「いや、そんなことはないけど・・・」
「あなたと話をしているとなんだか安心できるの。だからもう少し話したいなぁって思ってるの」
「なるほど。まあ、安心できるってことならいくらでも話はするよ」
「ちなみに、どうして俺と話をしてると安心できるの?」
「それはその・・・うーん・・・なんだろ?あなたに興味がある、と言うこともあるかな」

優里奈は少し恥ずかし気に言った。

「俺に興味がある!?どんなところに興味があるの?」
「それはいろいろ・・・かな」
「そっか」

私はそれ以上、突っ込まなかったが、優里奈は私に対して何かしらの感情を持っていることは話し方や仕草からわかった。おそらく私という存在は特別なものになっているのだろう。先日の会話でも私に効果がある方法を聞いてきたことも考えれば、おそらく考えられることは一つ。しかし、今の段階では確証は持てない。

それからときどき、優里奈からの電話がかかってくるようになった。特に恋愛テクニックの話をするわけでもなく、ただ私と話がしたいというだけなのだ。何気ない会話をひたすら続けていたが、私と会話している時の優里奈は、ホステスというより乙女のような感じに見受けられた。そして優里奈の態度が急変した。それは私から離れたくないと言ってきたのだ。優里奈は私に甘えてくる小さな女の子のようになったのだ。私の推測が正しければ、今後の関係性について考えなければならない。下手をすれば関係が壊れてしまう可能性もあるからだ。

■ 突然の告白と関係の結末

その後、ラウンジでは優里奈を指名してくるお客さんも増えてきたという。しかし、最近の優里奈は私と話をしているとき、何やら思い詰めているかのように暗い。その理由を聞いてみても答えないが、私もあえてそれ以上は突っこまなかった。私の推測が正しければ、何を思い詰めてるのかは一目瞭然だが、その確証がない。

ある日の夜、優里奈から電話がかかってきた。その内容は「話があるから今から会えないか」ということだった。優里奈の家からは電車一本で来れるので、私はこっちまで来てくれるのであればという条件で会うことにした。待ち合わせはいつもの中央改札口、私は先に到着して待っていると優里奈がやって来た。そして、駅前広場のベンチへ座った。ここは結構人通りが多い場所だが、夜ということもあって今は少ない。

「今日はバイト休み?」
「うん。平日だけど毎晩バイトじゃないから」
「そっか。それで話って何?」
「それはその・・・ちょっと言いにくいんだけど・・・」

優里奈の顔が少し赤くなっている。もしかしてここで?と思った。

「言いにくいって何?」
「あのね・・・ワタシは・・・あの、ワタシは・・・あなたのことが好きです」

私の予想は見事に的中した。やはりそうだったかと思った。しかし、こんなかなりの美人から好きだと言われて私も少し胸がキュンとした。

「それは、その・・・ありがとう」
「それでね・・・あの、ワタシのことどう思ってる?」
「どう思ってるかって・・・なんだろう。友達って感じかも。いや最近は妹みたいに思ってるよ」
「そっか・・・ワタシ、こんな仕事してるけど、あなたともっと深い関係になりたい・・・」
「深い関係って付き合いたいってこと?」
「うん・・・」

優里奈は顔を赤くしながらこくりと頷いてそう答えた。

「それを言うためにわざわざ来てくれたんだね?」
「うん。だってこんなこと、電話で言うことじゃないし・・・」
「えっと・・・どうしようかな!?突然のことでびっくりしてるんだけど、ちょっと考えさせてくれないかな?」
「わかった。じゃあいい返事待ってる・・・」
「ところで、俺のどこに惹かれたの?」
「あなたは、他の男性とは違う。ワタシはお店にくるような男性に興味はないの。あなたのように奥深い人に興味があるの」
「そっか・・・わかった。とりあえず考えさせて!」

これだけの会話でこの日は終わった。しかし、予想はしていたが、わざわざ電車に乗って告白してくるなんて相当のことだと思った。しかも、かなりの美人から付き合ってほしいと言われている。これは簡単に答えを出してはいけないと思った。

家に帰ってベッドに横たわり、今後どうするか考えた。優里奈はかなりの美人でホステスとしても人気がでてきているが、私の気持ちとしては恋愛感情を抱いていない。自分のことを理解してもらおうとは思ってないが、優里奈は深い関係になりたいと言っている。おそらく、私のことを知ろうと必死になるだろう。しかし、それは優里奈にとってかなり難しいことで悩み苦しませるだけになるかもしれない。だったら妹のように扱えばどうだろうか?自分のことは理解してもらわなくてもいいので、私が優里奈のことを理解していく方向であればいいかもしれない。いや、あの性格だと絶対に私のことを理解しようとするはず。それは「かなり難しいテクニックに興味がある」といっていたのが何よりの証拠だ。優里奈には精神的苦労をしてきた経験はなさそうだし、私を知ろうと努力しても途中でわけがわからなくなるだろう。私はただ恋愛テクニックを教えただけの存在なのだ。それはもう成し遂げたのだ。それならば私の出す答えはもう決まっている。ここはハッキリ言うしかない。

週末の土曜日、私は優里奈に電話をかけた。

「もしもし、俺だけど今大丈夫?」
「うん、大丈夫」
「電話でごめんね。この前の話だけど、俺に興味を持ってくれたのはありがとう。でもお互いに付き合わないほうがいいと思う」
「どうして?ワタシのこと嫌い?」
「いや、むしろ好きだよ。でも恋愛の好きとは違うんだよ」
「そっか・・・」

優里奈は悲し気に答えた。

「優里奈は俺と深い関係になりたいと言った。俺に興味があると言った。前にかなり難しいテクニックに興味があるとも言ってた。それで思ったんだけど、もし付き合ったら優里奈は俺のことを知ろうとするでしょ?」
「もちろん。好きな人のことを一つでも知りたいから」
「でもね、優里奈には俺を理解できないと思う。俺は普通の人とは違うレールに乗って生きてきた人間なんだよ。変子って言われる変わり者で捻くれ者。優里奈はそんな俺を理解しようと努力すると思う。でも途中でわけがわからなくなって悩み苦しむことになると思う。俺はそんな優里奈を見たくない。だから、ごめんなさい」

優里奈は電話の向こうで涙を流しているようだった。そして呟いた。

「ワタシにはあなたが理解できない、か・・・わかった」
「本当にごめんね。でも気持ちは嬉しかったよ」
「ワタシはあなたに本当にありがとうと言っておきたい。おかげでお客さんから指名がくるようになった。それは本当に感謝してる。でも、しばらく二人で会うのも連絡するのも辞めるね。辛いから・・・」
「わかった。最後に、ホステスとして自信持ってね。優里奈はやればできるって思うから」
「うん。ありがとう」

最初はラウンジの相談から恋愛テクニックを教えるようになって、いつの間にか好意を抱かれてしまった。私は優里奈に恋愛感情はなかったのもあるが、この結末で良かったと思っている。かなりの美人であってもそれは表面上のこと。実際にこれ以上深い関係になるということは、内面的な部分に大きく左右されてしまう。私ももっと軽く考えれる人間であれば付き合ったかもしれないが、精神的に苦労しながら物事を深く考えて生きてきて今の自分があるのだ。そんな自分を素直に受け入れてるのが私である。
その後、優里奈から連絡が来ることはなかった。もうホステスを辞めたかもしれないが、私が教えた恋愛テクニックはどこかで役立っているだろうと思っている。きっと今頃は幸せになってるのだろう。